エンジンが掛からないときのチェック方法|エンジン始動3大原則
昨日まで普通に掛かっていたエンジンが突然掛からなくなった。何度キックしても始動しない。そんな経験はありませんか?
ヴィンテージハーレーやトライアンフでも、本キック5回以内で掛かるのが正常な状態です。掛からない場合、何かしらの不具合があると思ってください。
エンジンが掛からなくなると、キャブレターを調整したり、点火時期を変更したりと、いろいろなところを触りたくなるものです。しかし、原因がわからないまま調整してしまうと、かえって問題を複雑にしてしまうことがあります。
ガソリンエンジンが正常に始動するには、昔から言われている3つの重要な原則があります。
「良い燃料・良い圧縮・良い火花」
この3つが適切な状態でそろい、さらに正しいタイミングで燃焼することで、エンジンは始動します。
今回はキャブレター式のヴィンテージハーレーやトライアンフを中心に、エンジンが掛からないときの基本的なチェック方法を初心者の方にもわかりやすく解説します。
各詳しいチェック方法は個別の記事で紹介していきたいと思います。
なお、本記事では、初爆がない(一瞬すら掛からない)ことを想定しての記事となります。初爆はあるがすぐに止まる、アイドリングが安定しない、吹け上がらない等は別記事にしていきます。
1. 良い燃料|ガソリンは正常に供給されているか?
エンジンを始動させるには、ガソリンと空気が適切な割合で混ざった「混合気」が必要です。
タンクにガソリンが入っているだけでは不十分で、キャブレターまで燃料が届き、適切な混合気となってシリンダーに吸い込まれている必要があります。
当たり前のことのようですが、意外と見落としがちで、初心者の方は一番トラブルとしては多い部分です。
① ガソリンタンクと燃料コックの確認
まずは簡単なところから確認していきましょう。
- タンクにガソリンが入っているか
- 燃料コックがONになっているか
- 長期間放置された古いガソリンではないか
特にチョッパーの場合、タンクがとても小さいのでガス欠になりがちです。燃料コックの位置によっては、まだ車体を揺らすとガソリンはあるのにコック部分に届いていないことがよくあります。
また、長期間放置されていた車両では、ガソリンの劣化やキャブレター内部の詰まりによって始動できなくなることがあります。
② キャブレターまでガソリンが来ているか?
燃料コックを開いていても、キャブレターまでガソリンが届いているとは限りません。以下をチェックしてみましょう。
- 燃料ホースが折れたり潰れたりしていないか
- 燃料フィルタが詰まっていないか
- タンクキャップが壊れていないか
意外と見落としがちですが、タンクキャップはガソリンが溢れないようにする機能の他、ガソリンタンクのガソリンが減った分だけ外部から空気を取り込む仕組みがあります。
正常な状態では、エンジンがガソリンを消費すると、タンクキャップなどの通気経路から外気が入ります。
ところが、この通気経路が詰まるとタンク内部が負圧になり、ガソリンが流れにくくなります。
その結果、最初は普通にエンジンが掛かっても、しばらくすると燃料不足になり、息つきやエンストが発生することがあります。
それでは、本当にキャブレターにガソリンが来ているか確認してみましょう。
キャブレターにフロートチャンバーのドレンがある場合は、燃料を受ける容器を用意し、ドレンからガソリンが出るか確認しましょう。
ショベルヘッドによく付けられているS&S Eキャブなど加速ポンプ付きのキャブレターの場合、スロットルを素早く開くと、加速ポンプノズルからガソリンが噴射されます。噴射されれば、フロート室に燃料があるという簡易的なチェック方法が使えます。
ガソリンが出てこない場合は、燃料コック、ホース、フィルター、フロートバルブなどに問題がある可能性があります。
※燃料の点検は必ず火気のない換気された場所で、エンジンが冷えた状態で行ってください。こぼれたガソリンは完全に拭き取ります。
③ 二次エアを吸っていないか?
二次エアとは、キャブレターから燃料が正常に供給されていても、インテークマニホールドなどから余分な空気を吸い込んでしまい、混合気が薄くなってしまうトラブルです。
特にヴィンテージハーレーでは、インテークマニホールドのガスケットの劣化や取り付け不良による二次エアの吸い込みが発生することが多いです。
二次エアはどちらかというと初爆はあるが、掛かってもすぐ止まる、アイドリングが安定しないなどのトラブルが多いので、今回は参考までに以下を簡易チェックしてみてください。
- マニホールドがずれていないか
- マニホールドに穴等がないか
- ガスケットやシールが劣化していないか
2. 良い圧縮|エンジンは正常に圧縮できているか?
燃料が正常に供給されていても、エンジン内部で十分に圧縮できなければ、正常な燃焼は起こりません。
エンジンはシリンダー内に吸い込んだ混合気をピストンで圧縮し、そこに火花を飛ばすことで燃焼させています。
ただし、今まで掛かっていたけど掛からなくなった、長期保管で掛からなくなったという場合、どこも触っていないのならば、突然、圧縮がなくなることはほぼありませんので、①のチェックだけしておきましょう。
① キックの踏み応えを確認する
キックスターター付きの車両であれば、まずキックを踏んだときの抵抗を確認します。
普段と比べて明らかに軽くなっている場合、圧縮が低下している可能性があります。
ただし、キックの重さだけで正常な圧縮圧力を判断することはできません。
あくまでも、普段との違いを確認するための簡易的な方法です。
② コンプレッションゲージで測定する
圧縮状態を数値で確認するには、コンプレッションゲージ(圧縮圧力計)を使用します。
一般的な測定方法は次のとおりです。
- 点火と燃料供給を停止する
- スパークプラグを取り外す
- プラグホールにコンプレッションゲージを取り付ける
- スロットルを全開にする
- キックまたはセルモーターでエンジンを回転させる
- ゲージの数値が上がらなくなったところの針を確認する
測定値はエンジンの年式、圧縮比、カムシャフト、測定時の温度、回転速度などによって変わります。
また、通常は暖機後の測定が基本ですが、エンジンが掛からない場合は冷間で測定することになります。
そのため、単純に数値の高低だけで判断するのではなく、サービスマニュアルの規定値や前後シリンダーの差、過去の測定結果なども参考にします。
③ 圧縮が低い場合に考えられる原因
圧縮圧力が低い場合、次のような原因が考えられます。
- ピストンリングやシリンダーの摩耗
- 吸気・排気バルブの密着不良
- バルブクリアランスやタペット調整の不良
- ヘッドガスケットからの圧縮漏れ
- バルブタイミングの異常
特にソリッドタペットを採用しているヴィンテージエンジンでは、プッシュロッドの調整が不適切でバルブが完全に閉じなくなる場合があります。
プッシュロッドを調整したあとにエンジンが掛からなくなった場合は、まず確認しておきたい部分です。
必要に応じてリークダウンテスト(圧縮空気を使ってシリンダー内部の漏れを調べる検査)を行い、どこから圧縮が漏れているのかを確認します。
3. 良い火花|スパークプラグは正常に点火しているか?
さあ、最後は良い火花の確認です。エンジントラブルNo.1の点火系のチェックをしましょう。
点火系の部品は消耗品ですし、突然、壊れます。普段から予備の部品を携帯しておきましょう。
燃料と圧縮が正常でも、スパークプラグから火花が飛ばなければエンジンは掛かりません。
また、火花が飛んでいたとしても、適切なタイミングで点火していなければ正常に始動できません。
① まずバッテリー電圧を確認する
最初に確認するのはバッテリーです。ハーレーの多くはバッテリー点火方式を採用しており、バッテリーから供給される電気を使ってイグニッションコイルで高電圧を発生させ、スパークプラグに火花を飛ばしています。
そのため、キックスターター付きの車両でも、バッテリーが上がっていたり、電圧が不足していたりすると正常に点火できず、エンジンが掛からなくなることがあります。
まずはテスターでバッテリー電圧を確認しましょう。一般的な12Vの鉛バッテリーでは、エンジン停止時に約12.6~12.8Vが満充電の目安です。最低でも12.0V以上あることを確認してください。ただし、電圧が正常でも負荷が掛かると大きく低下する場合があります。
12.0Vを下回っている場合、適切に充電するか、新品に交換しましょう。
② スパークプラグを確認する
次に確認するのはスパークプラグです。以下をチェックしましょう。
- 電極が摩耗していないか
- カーボンが大量に付着していないか
- ガソリンやオイルで濡れていないか
- 碍子(白い絶縁体)にひび割れがないか
- プラグギャップが規定値になっているか
プラグがガソリンで濡れている場合
ガソリンが供給されていることは考えられますが、混合気が濃すぎる、いわゆる「かぶり」の状態になっている可能性があります。
また、点火不良や圧縮不良によってガソリンが燃焼せず、プラグが濡れていることもあります。
濡れたプラグは正常に点火できなくなる場合があるため、適切に乾燥させるか、新しいプラグに交換して確認します。
プラグが真っ黒になっている場合
カーボンが大量に付着していると、電気が漏れて正常に火花が飛ばなくなることがあります。
混合気が濃すぎる場合や、燃焼状態が悪い場合などに発生します。パーツクリーナーで清掃の上、適切に乾燥させるか、新しいプラグに交換して確認します。
ワイヤーブラシでゴシゴシすると壊してしまいますので注意しましょう。
プラグは消耗品です。見た目に異常がなくても、内部で不具合が発生している場合があります。
予備の新品プラグがあれば、交換して確認することも有効です。
③ 実際に火花が飛んでいるか確認する
火花の確認には、専用のスパークテスターを使用する方法をおすすめします。
車両に適合したテスターを取り付け、指定の方法でキックまたはセルモーターを操作して、火花が発生しているかを確認します。
ただし、専用のテスターを持っていないひとがほとんどでしょう。ここでは簡易的なチェック方法を記載します。※簡易的なチェック方法では火花が飛んでいるかは確認できますが、火花の強さまでは確認できません。
- プラグをフロント・リアともに外す
- フロントのプラグコードにプラグをつける
- プラグの電極を鉄の部分(塗装のないボルト等)につける
- イグニッションスイッチをオンにしてキックする
- パチっと火花が飛ぶことを確認する
- リヤ側も同じく確認する
※点火系統には高電圧が発生します。プラグやコードの金属部分を手で持ったまま始動操作をしてはいけません。また、ガソリンが漏れている場所や燃料蒸気がある場所では火花の確認を行わないでください。
④ 火花が飛ばない・弱い場合は?
さあ、ここまでくると、だいぶ原因が掴めてきています。
次にチェックするのは以下になります。
- プラグコードやプラグキャップ
- イグニッションコイル
- ポイント接点の状態
- ポイントギャップ
- コンデンサー
- 配線やアースの接触不良
- 点火時期
このあたりから専門的になっていきます。1つ1つ個別の記事で解説していきたいと思います。
4. 症状から原因を絞り込む
ここまでの「良い燃料・良い圧縮・良い火花」をもとに、代表的な症状と確認する場所をまとめました。
| 症状 | 考えられる原因 | 最初に確認する場所 |
|---|---|---|
| キックしてもまったく初爆がない | 燃料不足、点火不良、圧縮不良 | 燃料供給・火花・圧縮 |
| プラグがガソリンで濡れている | 燃料過多、点火不良、圧縮不良 | プラグ・チョーク・火花 |
| プラグが乾いている | 燃料供給不足など | 燃料コック・キャブレター |
| 一瞬掛かるがすぐ止まる | 燃料供給不足、二次エア、混合気の異常 | 燃料供給・キャブレター |
| キックが異常に軽い | 圧縮低下、バルブ密着不良 | コンプレッション測定 |
| キックバックが発生する | 点火時期の異常など | 点火時期・ガバナー |
| 火花がまったく出ない | 点火系統・電源の不良 | バッテリー・プラグ・コイル・ポイント・配線 |
| 冷間では掛かるが温間で掛からない | 点火系統の熱による不調、混合気の異常など | コイル・コンデンサー・キャブレター |
※上記は代表的な例です。同じ症状でも原因が異なる場合があるため、一つずつ確認して判断することが大切です。
5. エンジンが掛からないときにやってはいけないこと
エンジンが掛からなくなると、いろいろなところを触りたくなるものです。
しかし、原因がわからないまま複数の箇所を調整してしまうと、最初の不具合とは別の問題を作ってしまうことがあります。
例えば、点火不良が原因なのにキャブレターを何度も調整してしまうと、点火系統を修理したあとも適正な混合気に戻さなければなりません。
同様に、キャブレターが原因なのにポイントや点火時期を変更してしまえば、どこが本当の原因だったのかわからなくなってしまいます。
大切なのは、上から順に一つずつ確認することです。
点検して問題がなかった部分はむやみに調整せず、次の確認項目へ進みましょう。
まとめ
エンジンが掛からないときは、まず次の3つを確認してください。
| 基本条件 | 確認すること | 主なチェック方法 |
|---|---|---|
| 良い燃料 | 適切な混合気が供給されているか | 燃料コック、キャブレター、プラグの濡れ具合 |
| 良い圧縮 | シリンダー内で正常に圧縮できているか | キックの踏み応え、コンプレッション測定 |
| 良い火花 | 正常な火花が適切なタイミングで飛んでいるか | バッテリー、プラグ、スパークテスター、ポイント、点火時期 |
この3つを順番に確認することで、エンジンが掛からない原因を大きく絞り込むことができます。
もちろん、実際の故障診断ではさらに細かい点検が必要になることもあります。しかし、基本を理解しておけば、何を確認するべきか、どこに問題があるのかを考えられるようになります。
ヴィンテージハーレーやトライアンフは、構造が比較的シンプルな分、こうした基本的な仕組みを理解することが整備の第一歩になります。
ナイトメアピットでは、こうしたエンジンの仕組みや故障診断についても、実際の車両を使いながら学ぶことができます。
部品を交換するだけではなく、「なぜエンジンが掛からないのか」を自分で考え、原因を見つけられるようになること。
それもバイク整備の大切な技術の一つです。
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